top of page

【サイエンスコミュニケーションと法#5】雇止めの紛争にも影響?2024年に変更されていた「労働条件明示」のルールとは?

執筆者の写真: Pro SciBacoPro SciBaco

サイエンスコミュニケーションに関係する最近施行された法律について解説していく「サイエンスコミュニケーションと法」という連載、第5弾は2024年に施行された「労働条件明示」の項目追加について紹介していきます。サイエンスコミュニケーターの中には、時限付きの雇用で働いている方も多いのではないでしょうか。長年有期雇用で働いた場合、本来であれば無期雇用へ転換することが労働契約法のルールとなっています。しかしそれを遵守せず、無期転換ルール前に契約を打ち切る「雇止め」が問題になっています。果たして新たなルールで雇止めは解決されるのでしょうか?


サイエンスコミュニケーションと法のロゴ

無期転換ルールとは?


無期転換ルールとは、同じ使用者(企業)との間で、有期労働が5年以上更新された場合は、有期労働者から期限の定めのない無期労働契約にしてください、と申請できるというルールです。労働者側の雇用の安定を守るために、2013年4月1日に改正された労働契約法によって定められました。通常は通算5年を超えると無期転換申し込み権が発生しますが、研究者だけは5年以上のプロジェクトもあるということで、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(なが!)という別の法律が作られ、わざわざ10年までは有期雇用ができるというルールが適応されます。


労働者側は安定して働けること、同じ職場の待遇の格差解消などの利点があります。もちろん企業にとっても、更新して雇用してきた有能な人に長く働いてもらうことができ、長期的な経営戦略が立てやすくなる、WinWinの法律じゃん!と思われた来たわけですが...。



無期転換の申し込みをされたくない使用者側から、無期転換の申し込みが可能になる期限前に契約を終了する「雇止め」という新たな対抗措置が取られました。



無期転換の申し込みは、5年超えたら口頭でその日から申請できます!



深刻な雇止め問題


大学の場合、ちょうど雇止めが発生する前の2022年に文科省が独自で調査を行っています。その調査では、下記のような結果になっています。


今般の機関への調査では、回答機関における10年特例の対象者(以下「特例対象者」という。)のうち、令和4年度末前後に労働契約を更新していれば労働契約法の無期転換ルールにもとづく無期転換申込権が発生していた者について、新たに無期労働契約を締結した者が4.1%、有期労働契約を継続した者(研究者・教員等に無期転換申込権が発生し、研究者・教員等からの申込みがあれば無期労働契約に転換される者)が76.4%、労働契約を終了した者が16.1%(定年退職の者を除く)という結果になりました。

この調査では16%が雇止めに合っているという結果になります。ただ当時の調査では16.1%の中で次の雇用が確定している人は3%で、その他は状況が未定、もしくは求職中となっており、雇用の流動化につながっているとは考えづらい状況です。


実質雇止めではあるものの、契約の時に契約更新無しの条件に承諾しないと契約が更新されないなど、労働者側には不利な条件での契約が続いています。その労働条件で契約した以上、裁判では雇止めに対しての訴えは退けられています。


2024年12月21日 朝日新聞


追加されたルールで雇止めは改善する?



正直、しません。


さて、ここから新しいルールを解説していきましょう。


新しいルールでは更新条件の明示と、更新上限を新設・短縮しようとする場合の説明事項が必要になっています。簡単に言うと、2回までしか更新しないよ、とか契約更新の回数をきちんとあらかじめ決めるということです。

多分、多くの使用者は既に労働条件にそれらを含んでおり、契約の段階で不利な条件を結ばされている有期労働者は多いでしょう。


次に無期転換申し込み権が発生する有期契約労働者にちゃんと無期転換申し込み機会を書面で提示するというルールです。そもそも法律で口頭でも無期転換申し込みは可能になっていますが、その運用を知らない対象者に無期転換できるよってお伝えするということです。ただ、雇止め対象者はそもそもこの対象になっていないので、雇止めは改善しません。


結局、トラブルを避けるためだけに作ったルールであり、雇止めを防ぐ目的にはこのルールは使えません。


いわゆる「雇止め」をめぐるトラブルが大きな問題となっています。このようなトラブルの防止や解決を図る観点から、厚生労働省では、労働基準法第14条第2項に基づき、「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」を策定しています(令和6年4月1日一部改正)。 厚生労働省リーフレットより


雇止めされなくても無期転換は難しい?


雇止めは使用者側にも事情があります。期限付きの予算で運用されている機関にとって、期限の定めのない労働者への転換にこたえることが難しいのです。

そしてサイエンスコミュニケーションの現場に近い大学は、まさにその象徴的な機関であると言えます。


実は、2025年に発表された調査では、たとえ無期転換申し込み権が発生していても多くの人が有期雇用契約を継続しています。



ではこれは労働者の意思でしょうか?労働者の研究者側に撮った調査では6割が無期転換を希望しているため、無期転換を希望しているにもかかわらずそれがかなっていない状況です。





有期契約継続の理由は大学側の資金確保が大きな理由になります。

第105回人材委員会参考資料(令和7年1月22日)



雇止めは本当に雇用者の安定を目的とした労働基準法の理念に背く運用です。しかしたとえ雇止めが行われなくても無言の圧力で有期雇用が継続されているという事実もまた、解決する必要がある課題です。


閲覧数:14回0件のコメント

最新記事

すべて表示

怠惰の勧め

Opmerkingen


bottom of page