【サイエンスコミュニケーションと法#6】話題の再生治療は法律でどのように取り扱っている?
- Pro SciBaco
- 4月24日
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サイエンスコミュニケーションに関係する最近施行された法律について解説していく「サイエンスコミュニケーションと法」という連載、第6弾は現在、改正に向けて議論が進んでいる再生医療等安全性確保法を取り上げます。再生医療は医療の可能性を広げてくれる可能性がある一方、まだ安全性の確保が十分ではないという課題があります。法律はこの新技術にどのように対応しているのでしょう。

大阪万博でも盛り上がるiPS細胞
始まる前はいろいろと指摘されていた大阪万博ですが、多くの方が訪れて盛り上がっているようです。その中でも目玉展示の一つとしてiPS細胞で生まれた人工心臓があります。
ここ数年、夢の技術であったiPS細胞は治療の現場での臨床研究が開始されています。例えば、2025年3月には脊髄を損傷した患者にiPS細胞で作成した神経幹細胞を移植して脊髄再生の治験がは始まりました(詳細はこちら)。4月にはiPS細胞から作ったドーパミン神経細胞をパーキンソン病患者7人に移植する治験で安全性と有効性が確認されたことが発表されました(詳細はこちら)。どちらも不治の病と言われていた疾患だけに期待は膨らみます。
再生医療とは?
再生医療とは、病気やケガで失ってしまった私たちの体の機能を「再生」する医療です。これまでの治療とは全く違う発想の治療法です。代替が効かないと思っていた私たちの体を部品を交換するようにメンテナンスできれば…という再生医療です。
ただ再生医療にはハードルがあります。まずどう体の機能を作っていくのかが課題です。私たちの体の細胞はすでに臓器や血液、皮膚となってしまった「体細胞」と、まだなんの形にもなっていない「幹細胞」があります。再生治療ではまずこの「幹細胞」を使って、再生したい部分を作っていこうとしています。
再生医療では3つの幹細胞の仕組みを取り組んでいます。一つは私たちの体の中に元々ある「体性幹細胞」を使うやり方です。骨髄や脂肪の中にある「体性幹細胞」は骨、軟骨、脂肪細胞などに分化する能力があります。
体性幹細胞は数が限られていること、また分化する細胞が限られていることが課題でした。その課題を克服することが期待されているのが「ES細胞」と「iPS細胞」です。この二つの細胞は万能細胞と呼ばれ、どんな細胞にもなれます。ただ「ES細胞」は受精卵から胎児になる途中の過程で取り出されるため、赤ちゃんになる可能性のある細胞を利用することに倫理的問題があります。
そんな課題を克服するのが「iPS細胞」です。iPS細胞は幹細胞ではなく、体細胞という私たちの体の細胞を取り出して、幹細胞の状態に戻してあげる技術です。体性幹細胞のような量や分化の限界もなく、ES細胞のような倫理的な問題もクリアしたiPS細胞への期待は高まっています。ただ、細胞のがん化など検討しなければならない項目もあります。
再生医療等安全性確保法とは?
2013年、再生医療を迅速にかつ安全に活用するため、「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律(再生医療推進法)」が交付されました。そのもとに二つの医療法が連なっています。一つは再生医療を行う際の安全性について検討する「再生医療の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」、もうひとつが再生医療に関連する「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」です。
特に治療にかかわるのが、「生医療等安全性確保法」です。この法律では特定の技術、医療行為を禁止していません。リスクに応じて、3つの手続きを用意しています。
まず第1種は治療として実施が未段階であるES細胞やiPS細胞の再生医療です。これらの医療行為を行いたい場合は医療提供の計画を策定し、特定認定再生医療等委員会で審査後に、厚生労働大臣へ提供計画の提出があり、90日の提供制限期間を設け、厚生科学審議会の意見があれば、計画の変更を受け入れる必要があります。そういう意味では緊急性を要する治療には使えないと考えられます。
第2種は現在実施されている体性幹細胞などを利用した中リスクの医療行為です。これは特定認定再生医療等委員会に提供計画を提出し、審査を経たら厚生労働っ大臣への提供計画の提出が終わると提供開始になります。
第三種は患者自身の細胞を採取して、それと同じ機能を持つ細胞に投与する「相同利用」と呼ばれる治療が対象になっています。例えば、乳がん治療の乳房再建の際、腹部の脂肪組織を乳房に移植するといった治療例があります。比較的リスクが低い治療です。これらの治療の審査は認定再生医療等委員会で審査します。
なお、特定認定再生医療等委員会は各大学、各医療機関が委員会を設置することとなっています。委員会のメンバーは、分子生物学や臨床医、細胞培養加工に関する専門家だけではなく、法律に関する専門家や生命倫理に関する専門家を参加させることが構成要件になっています。
改正に関する議論
2024年に、この法律を現在の再生医療に関する現状に合わせて改正する議論が始まりました。具体的にこの改正で話し合われるのがin vivo遺伝子治療です。in vivo遺伝子治療は患者の体内で遺伝子を作り、再生していくタイプの治療です。わかりやすい事例では、mRNAワクチンがあります。新型コロナウイルス感染症のワクチンはこのワクチンで、RNAを投与して、私たちの体の中でRNAを使って抗体を作っていきます。
これらも同じ再生医療であるということと、リスクについても議論があるということで、この再生医療安全確保法の範囲内に含まれるのではないかということを検討するそうです。また、ゲノム編集治療など、遺伝子を直接私たちの体の中に投与して、私たちの体内で再生が行われるという治療の可能性も検討されているのです。
新しい治療には期待が高まるとともに、安全性の仕組みをどう確保していくか、私たちにも大きくかかわるテーマです。

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