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【CIRCO】第2回 “恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造”

“CIRCO”(チルコ)とは,ラテン語で「歩き回る」の意味。その言葉が転じて、探し回る、探求するという意味も含んだ“Resarch”という言葉が派生した。この連載は、サイエンスライターの室井宏仁が、博物館や美術館を巡りながら,科学や技術のあれこれについて考えたことを書いていく、連載企画である。

第2回 “恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造”


何年かおきに子供たちの間で流行する科学ネタが3つある。昆虫,宇宙,そして恐竜だ-。科学コミュニケーションに関わる人たち同士の飲み会で,以前こんな話を聞いたことがある。確かにどれも子供ウケはよさそうだが,個人的にはなかでも恐竜は別格だと思っている。展示の題材として鉄板なのはもちろんだが,なによりフィクションへの影響力は無視できないだろう。誰でも1つくらいは,恐竜やそれをモチーフにしたキャラクターが登場する創作物が思い浮かぶのではないか。かくいう筆者も,小さい頃に楽しんだ特撮番組に出てくる怪獣から,恐竜に興味をもち始めた一人だ。そんなことを思い出しながら,今回は上野の森美術館で開催された“恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造”をCIRCOした。


この展覧会は,パレオアートとして描かれた恐竜像と,その変遷をたどるものだった。パレオアートとは,科学的な証拠を参考に作られた,古生物を題材とする芸術作品のこと。イングランド・ドーセット州で,メアリー・アニングがプレシオサウルスの全身骨格を発掘したわずか7年後には,発掘地の先史時代の様子の想像図である「ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)(1830)」が発表されている。以降,世界各地で発見された化石をもとに,太古の地球や生物たちが絵画や彫刻として表現され,大学や博物館の装飾,あるいは教科書の挿絵に用いられるようになっていった。



レオン・ベッケル《1882年、ナッサウ宮殿の聖ゲオルギウス礼拝堂で行われたベルニサール最初のイグアノドンの復元》は,初期の恐竜復元作業の様子を描いた資料としても注目に値する。

時代が下るにつれて,パレオアートは一般にも広まっていく。たとえば,20世紀初頭には,ドイツの菓子メーカーが自社製品のチョコレートの「おまけ」として,恐竜などの古生物が描かれたカード『太古の動物(1902~1916)』を製作・発行している。これは今でいう食玩であり,消費者のコレクション欲を刺激し,販促にも役立ったことだろう。さらに驚くべきことに,カードにはなんとサイエンスライター(!)の手による解説文まで付いていた。まだ教育制度も十分整っていなかった当時,これらは恐竜をはじめ古生物のイメージや知識を大衆に普及させるのに,大きな役割を果たしたのではないだろうか。



ドイツの菓子メーカーによるカード「太古の動物(1902~1916)」は,恐竜だけでなくアンモナイトやマンモスなど多種類のラインナップがあった。

パレオアートの発展は,科学の知見によって芸術表現の幅が拡張していく流れと捉えられる。特に恐竜に関しては,1970年代以降になって恒温動物説が提唱されてから,現生の生物種とのつながりがより明らかになった。現在まで続いているこの大きな変化に伴って具体的な描写も変化し続けており,鱗に覆われた大型の爬虫類という従来のイメージにとどまらず,鳥のように羽毛やクチバシをもつ姿も描かれるようになっている。



小田隆《ティラノサウルス上科生体》(2013)は,近年の恐竜研究を基にした,羽毛をもつ肉食恐竜が描かれている。

いずれは,こうした新しい恐竜像を反映した創作物も広く流布し,私たちの想像力をかきたてるようになるのだろう。


 

[今月のCIRCO]



会期: 2023年5月31日(水)~7月22日(土)

時間:10:00 ~ 17:00(土日祝は 9:30 ~ 17:00)

会場: 上野の森美術館


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