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【CIRCO】第4回 “超絶技巧,未来へ! 明治工芸とそのDNA”

“CIRCO”(チルコ)とは,ラテン語で「歩き回る」の意味。その言葉が転じて、探し回る、探求するという意味も含んだ“Resarch”という言葉が派生した。この連載は、サイエンスライターの室井宏仁が、博物館や美術館を巡りながら,科学や技術のあれこれについて考えたことを書いていく、連載企画である。

第4回 “超絶技巧,未来へ! 明治工芸とそのDNA”


古代ギリシャの哲学者,アリストテレスは「芸術は自然を模倣する」という言葉を残している。模倣を単に「真似ること」とするならば,今やそれ自体は決して難しいことではない。3Dプリンターで,移植用の臓器や神経が作られようとしている時代である。身の回りに目を向ければ,スマートフォン付のカメラで風景を文字通り「写す」ことも簡単にできてしまう。模倣という行為のハードルが確実に下がっている現代だからこそ,芸術の位置づけが問われているようにも思える。そんな中で,芸術家はどのように創作に向き合っているのか。



三井記念美術館で開催された“超絶技巧,未来へ! 明治工芸とそのDNA”をCIRCOしながら考えた。


「超絶技巧」とは本来,並外れた難易度の演奏技術や楽曲,それらを弾きこなす演奏家を形容する言葉。2000年代初頭からは,おもに明治時代以降に,熟練した職人技によって作られた工芸品を指して使われるようになってきている。本展は過去2回開催された「超絶技巧」をテーマに据えた展覧会の第3弾で,明治期に作られた作品と合わせて,現代の作家による作品が数多く出展されていた。


ガラス細工やペーパークラフトまで網羅した多様な出展作品はいずれも極めて精巧で,特に動植物を造形したものは,いずれも実物と見紛うほど。また,無数の小さなパーツを組み上げたり,ミリ単位で線を書き入れたりといった,制作のテクニックも目を見張るものがある。だがそれ以上に,キャプションを通して伝わってくる作者のこだわりに心を動かされた。


例えば,生き物の構造や動きの機構まで正確に形作ることで「それらが生まれた意味に少しでも近づくような気がする」と語る,大竹亮峯の『月光』(2020)。多肉植物のゲッカビジンを象った木彫は,水を注ぐと花が実物のように開くというギミックを備える。



大竹亮峯《月光》(2020)。本作も含め,作者は実物さながらに可動する木彫を多く制作している


また,花器は花粉を媒介するコウモリの羽をモチーフにデザインされており,植物の生態への緻密な取材が窺える。本郷真也の『Visible 01 境界』(2021)は,ハシボソガラスを実物大で造形した金工作品。なめらかな羽毛の質感が再現されているが,外からは見えない骨格や筋肉をまず作成し,次いで外皮を組み上げている。銀や銅ではなく,あえて劣化しやすい鉄を用いて「生命を形にしたい」と考える,作者の執念が伝わってくるようだった。




本郷真也《Visible 01 境界》(2021)。カラスの胃にあたる部分には,餌と間違えて飲み込まれた異物を造形した,銀の塊が配置されている



こうした姿勢は,専門分野を探求する研究者のマインドにも通じるように感じられる。特定の事柄(自然物に限らず)を突き詰めて捉えようとする営みが,芸術家と研究者では似通ってくるのかもしれない。結果として生み出されるものこそ違うが,私達の住む世界の一部を切り取って見せているという点で,両者の営みは共通していると言えないだろうか。


 

[今月のCIRCO]



会期: 2023年9月12日(火)〜11月26日(日)

時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)

会場: 三井記念美術館


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