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サイエンスコミュニケーションにおける定性的評価

更新日:7 日前


サイエンスコミュニケーションは定性評価で何が変わる?
サイエンスコミュニケーションは定性評価で何が変わる?

定性評価とは

定性評価とは、定量的ではなく内容や過程、心情などを自然状態で観察や聞き取りをしてその質を理解していく評価です。例えば、ある日本酒が何本売れているかは定量評価ですが、その日本酒の味についての評価は定性評価です。定性に評価するというのは、このように日常でもよく使われています。


サイエンスコミュニケーションにおいても、定性評価は重要な評価です。サイエンスコミュニケーションのイベントの来場者数や開催回数をどれだけ調べても、サイエンスコミュニケーションの効果や多様性は測れません。そのため、定性的に評価していくことが重要になってきます。


定性評価の種類

定性評価には様々な手法がありますが、調査の方法としてはインタビューと観察という二つの手法があります。


インタビューには、一人に聞くインタビューのほかに、グループと一緒に聞くグループインタビューがあります。またインタビュー項目があらかじめ決まっている構造化インタビューから、あらかじめ決めたインタビューとインタビュー中で生まれる問いを組み合わせた半構造化インタビュー、あらかじめ質問を決めない非構造化インタビューがあります。


インタビューではインタビューイの経験や心情を聞き出すことができます。アンケートなどでは深堀できない、詳細な聞き取りも可能です。一方で、インタビューイとインタビューアーの関係性が確立されていなかった場合にうまく聞き出せない、インタビューイの記憶によって語られるために、他者の事実との間に乖離が生まれるなどの注意点もあります。


観察には、評価者が活動に加わらずに第三者として観察する観察と、参加して観察する参与観察があります。観察では起こった出来事を記録するので、起こったことによる齟齬がインタビューと違い生まれません。一方で、観察からなにを記録するのかという記録の観点、そして記録したものから何を共有するのかという抽出の観点に観察者の観点が影響します。またあらかじめ観察するものを決めておく観察者と、観察の中で発見していく観察者がいます。


欠如モデルも定性評価から生まれた

サイエンスコミュニケーションを学ぶ過程で必ず出てくる欠如モデルというコンセプト。欠如モデルとは、非専門家が知識なく空っぽな存在であるということを仮定する専門家の認知のモデルです。この認知モデルに従うと、空っぽな非専門家に情報を一方的に与えればいいというコミュニケーションを立案しがちです。しかしその認知は間違っているというのが欠如モデル批判です。


実はこの欠如モデルも定性評価から生まれました。ウィンはイギリスのシェフィールドという町で聞き取り調査を行いました。この町はウインズケールド原子力発電所を有し、一度そこでは火災が起こっていました。ウインズケールドの火災事故で放射能は拡散していないと町の人は専門家に説明を受けていました。その後、チェルノブイリ原発事故が起き、再びシェフィールドは放射能汚染について調査する必要が出てきました。


調査団に、町の人は汚染はウインズケールドの事故のものなのか、それともチェルノブイリの事故のものなのかを尋ねますが、まともに取り合ってくれません。また調査場所も、町の人があまり使わない牧草地を調査したりと的外れなものばかり。調査者の専門家に不信が募っていきます。


ウィンは一人の農家の言葉を記しています。


私たちは、新しい啓蒙の時代の前夜にいるのかもしれない。科学者が「わからない」と言うとき、もしかしたら未来に希望が持てるかもしれませんよ。

分からないと言ってくれたら、信頼が持てるのに。わからないと言えないと思い込んでいる専門家と、わからないと言ってほしい町民とのすれ違いをウインは描きます。

この調査をきっかけに、非専門家と対話せずに一方的に行うコミュニケーションを欠如モデルとウィンは定義し、サイエンスコミュニケーションの分担を生む認知モデルであることを指摘しました。


Wynne, B. (1992).

Misunderstood misunderstanding: social identities and public uptake of science.

Public Understanding of Science, 1(3), 281–304.


サイバコでは、定性評価を通して、このような誤解や分断を生まないためにはどのようなサイエンスコミュニケーションが必要かを探っていきます。定性評価は専門的知識、技能が必要な調査ですが、これからのサイエンスコミュニケーションには必要な評価です。


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