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失敗集#1:科学館建設の公聴会で住民の反対意見が噴出した!のは本当?

更新日:2023年7月21日



S市のベットタウンである人口10万人ほどのT市は比較的子供たちが多く住んでいます。行政は子供たちのために科学館建設の検討が行われ、住民全体のニーズを把握しようということになりました。

 そして、まずアンケート調査が行われました。その時のアンケート結果では70%近くの市民が科学館建設に賛成でした。そこで建設用地の候補を決め、住民に対して公聴会を開催しました。しかし、公聴会では反対意見が多く出され、科学館建設の同意を得ることができませんでした。



 

どうしてこのような結果になったのでしょうか?


まず、アンケート調査に回答を寄せた市民と公聴会に参加した市民との違いを考えてみましょう。


このような社会調査では対象者全員にアンケートを取ることはほとんどできません。市民全員に調査を実施するとアンケート結果の信頼性は高くなりますが、調査費用や集計作業が膨大となります。そのため標本調査を行っています。このような場合、アンケート用紙の配布の仕方によって答える人たちに偏り(バイアス)がかかってしまうことがよくあります。今回はT市の小中学校、市役所、公民館という比較的子供たちや子供たちの親の世代が手に取りやすい場所で配布したとのことです。したがって無意識ではありますが、高年齢の人たちの意見を無視したことになったのかもしれません。


一方、建設用地候補の住民に対する公聴会では、候補地の近隣にある世帯にお知らせのチラシを配布しました。そうするとアンケート調査ではあまり意見を集められなかった高年齢層の住民が公聴会に参加したと考えられます。というのも世帯ごとにチラシを配布するとその世帯の長が公聴会に参加するという自己選択バイアスがかかりやすい状況になるからです。そして公聴会では高年齢層の住民が気になる建設時の騒音問題に議論が集中し、科学館ができたら子供たちにどのようなメリットがあるのかについて理解してもらう機会とはならなかったと考えられます。


今回のケースでは、住民の意見徴収を2回実施していますが、アンケート調査と公聴会参加では、それぞれに異なるバイアスがかかってしまい、住民全体のニーズを捉えることができませんでした。つまり市は、目的を達することができなかったということになります。


どうしたら、これらのバイアスを取り除くことができるのでしょうか?


様々な立場の人たちの意見を汲み上げることを目指す「サイエンスコミュニケーション」の観点で考えてみましょう。


まず、T市の一部の住民に行ったアンケート調査についてです。このアンケートを行う場案、確率標本抽出法を用いた方がよかったと思います。確率標本抽出法には母集団から対象者リストに基づいて、単純に無作為に標本を抽出する方法(単純無作為抽出法)、母集団をいくつかの同質のグループに分割して、各層の大きさに応じて無作為抽出する方法(層化抽出法)などがあります。これらの方法を用いると母集団に対する代表性が高くなります。


例えば、層化抽出法でアンケート調査の対象者を決める場合は住民情報から年齢ごと(10代、20代、30代、40代、50代、60代、70代以上)にグループを作り、それぞれのグループで住んでいる地域、通っている学校、職業の偏りなくアンケートに答えてもらうようにします。このように対象から意見をもらうことができればバイアスは小さくなると考えられます。


また、自計式か他計式といった調査の種類もアンケートの回収率やバイアスに関係します。自計式には留置調査、集合調査、郵送調査、インターネット調査があり、他計式には訪問面接調査、電話調査などがあります。インターネット調査は短時間、低コストで多くの回答が期待されますが、代表性の偏りが生じやすくなります。このようにどれも一長一短あるので、十分検討する必要があります。


公聴会での参加者バイアスはどうしたら小さくできますか?


公聴会は住民が行政への意見を述べるオープンな場なので、いろいろな意見がでてくるのは、当然です。しかし、地域住民の全体の意見が反映されないと意味がありません。そこでアンケート調査の対象者を決める場合と同じように住民情報から年齢ごとにグループを作り、それぞれのグループで住んでいる地域、通っている学校、職業の偏りなく参加してもらうよう働きかけることによってバイアスを小さくすることができると思います。


そうしてより建設的な話し合いの場が作れると住みやすいまちつくりにつながっていくと思います。



私たちは正しく情報を選択できているでしょうか?

少し振り返ってみるだけで、私たちの認知を歪ませる現象の多さや自分自身が偏った情報の受け止め方をしていることに気がつくことができると思います。

バイアスの影響を考慮するだけではすべて解決するわけではありませんが、まずは一緒に「サイエンスコミュニケーション」の視点で認知バイアスの影響とそれへの対応策を考えていきましょう。

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