バックオフィスにおけるサイエンス・コミュニケーション
- 永田 健
- 5月16日
- 読了時間: 4分
私は、サイバコでパートタイマーとして働くのと同時に、CrowLabという会社の取締役も務めています。CrowLabでは、創業時から数年間、バックオフィスを中心に担当してきました。バックオフィスの内容は、経理・税務といった資金関係の仕事から役所手続きまで多岐にわたります。顧客と直接やり取りするフロントオフィスに対して、顧客と直接やり取りしないため、企業活動の後方支援ということでバックオフィスと呼ばれているようです。

多様なバックオフィスの業務内容に応じて、登記であれば司法書士、税務であれば税理士といった具合に、様々な士業が活躍しています。多くのバックオフィス業務は、書籍等を調べて社内だけで対応することも不可能では無いのですが、専門的な知識を要する上、ちょっとした間違いが法律問題につながりかねないため、必要に応じて、それぞれの分野のスペシャリストである士業の協力を仰ぐことになります。
経験の無い方だと、バックオフィスは本業に直接関わらないので、事務職や顧問契約した士業に丸投げできるのではと考えるかもしれません。場合によっては、お金を生み出さない非効率的な業務と考える人もいるでしょう。しかし、資金に余裕の無い企業にとっては、経営者が資金繰りを把握し、適切なタイミングで適切な量の資金調達を行う必要がありますし、資金調達のためには信頼できる資金計画・事業計画を作成し、金融機関等に説明する必要があります。また、商品やサービスの値付けのためには、仕入や外注などに要する費用を適切に把握しなければなりません。昨今ではコンプライアンスが重要視されているため、本業に関わる法律や労働関係の法律などについても、経営者は熟知する必要があります。このように、バックオフィスは会社の事業の根幹に関わっており、簡単に外部に丸投げできるようなものではありませんし、バックオフィスを経営者が適切に把握することは会社の効率的な経営にもつながります。
とは言え、経営者が全てのバックオフィスについて専門家となるまで習熟して遂行するのは非効率的です。そこで、経営者と労働者と士業が適切に分業体制を取ることになります。経営者に求められるのは、それぞれの業務において、経営者以外でも担当できる部分を切り分けて委任し、業務の監督をしながら、士業の協力を仰ぐべき事案や経営判断が必要な事案を見抜くスキルです。当然、このスキルを養うに足る程度には専門知識を学ぶ必要があります。

一見、サイエンス・コミュニケーションと全く関係ないようなことを書き連ねてきましたが、サイエンス・コミュニケーションを、専門的な内容についての、専門家と非専門家間のコミュニケーションと捉えるのなら、経営者と士業の間のやり取りも、サイエンス・コミュニケーションの実践の場の一つと言えるかと思います。学際研究における異分野間交流のように、私は、情報交換する士業の方を異分野の研究者と思って議論してきました。学際研究を進めるには、参加する研究者が互いに相手の研究分野を尊重し、異なる方法論を理解しつつも、相手の専門領域に踏み込んで議論する必要がありますが、その辺りは全く同じだと感じています。異分野の研究者を一箇所に集めただけでは学際研究が生まれないように、士業と契約したからと言って業務が完了する訳ではありません。特に、既存の枠組みに当てはまらないような事業を実施するベンチャーでは、士業にも努力して貰う場面が多いので、士業選びの際には、事業の内容に深く関心を持ってくれているか、専門知識を分かりやすく説明してくれるか、対等な立場で議論してくれるかといった点に十分に注意する必要があります。
既に起業して長い経営者の方には釈迦に説法だったかと思いますが、私は、バックオフィスの業務を担当するまで、バックオフィスや士業の経営における重要性を十分に理解出来ていませんでした。これから大学発ベンチャーなどで起業を目指す方の参考になれば幸いです。
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