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執筆者の写真Mineyo Iwase

失敗集#2:男性は絶滅する?!

更新日:2023年8月29日

20年以上前のことですが、オーストラリアの研究者は哺乳類の進化に伴ってY染色体が小さくなっていることを発見しました。そして人類のY染色体は消滅するであろうとする説を発表しました。


染色体は遺伝情報の発現と伝達に役割を持つ細胞内にある生体物質です。多くの人類は22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持っています。性染色体の組み合わせは女性では2本のX染色体、男性ではX染色体とY染色体1本ずつとなっています。


Y染色体上には男性を決定する多くの遺伝子が位置しており、その遺伝子が発現することで男性特有の形質が出来上がっていくことになります。


その後、様々な哺乳類の性染色体のDNA配列が決定され、この進化に伴ったY染色体が矮小化を裏づける結果も多く報告されるようになりました。但し、男性が絶滅するとは研究者は言っていません。


ところが、男性は絶滅するという説が流布するようになりました。



 

どうして男性が絶滅するという説が流布されたのでしょうか?


今回のケースは研究途上の内容を新聞やテレビといったマスメディアが取り上げ、X染色体=♀、Y染色体=♂という記号で表わすことでY染色体イコール男性というイメージを作り、Y染色体が小さくなっていると言うことは将来男性が絶滅するのでは?と言及することが頻繁に行われたようです。そのため「男性は絶滅する」可能性が高いと誤解される現象が起きてしまったと思われます。


これはウーズル効果あるいは引用による証拠といわれる現象で、頻繁に引用されたり、みんなが言っていたりすると、そのことが正しいと感じるようになる情報に関する認知バイアスによって起きる現象と考えられています。


少し似ている認知バイアスにマタイ効果というものがありますが、これは「条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることでさらに条件に恵まれるという現象」です。研究を発表した研究者の信用があれば、その結果も信用され、さらにその研究者の評価が高まるということなので、ウーズル効果とは異なりますが、まちがいやすいので覚えておいても良いでしょう。


今回注目したウーズル効果は情報自体が独り歩きをするようなイメージです。一度、情報が拡散してしまうとそれが事実でなくてもそのイメージを覆すことが難しいことは、著名人のスキャンダルやバイトテロなどの現象で私たちもよく知っていると思います。SNS等で誰もが情報を気軽に発信できるようになった現代社会ではその影響がさらに強くなってきていると言えるでしょう。


今回のケースは多くのメディアに取り上げられましたね。このことの影響は大きかったのではないでしょうか?


そうですね。

通常、一般向けの新聞や雑誌のライター、テレビ番組制作者は多くの読者、視聴者を意識して制作します。だからこそY染色体=♂と記号化するといった、だれでも直観的に分かりやすい表現が採用されたものと思われます。


また、マスメディアが制作した科学番組はエンターテインメント性を重視していることが報告されています。そのため、科学を扱っていても学術的文脈を社会の関心に合わせて脱構築した構成した番組となってしまうのではないかということも指摘されています。


このように誤解されやすい状況が生み出され、多くの人が視聴することによって、ウーズル効果が引き起こされてしまったものと考えられます。


このようなウーズル効果をどうやって防ぐことができるのでしょうか?


おそらく、自分自身で調べ、事実は何かを考えてみれば、「男性は絶滅する」ことは誤解であることに気づくと思います。また、たとえ論文に書かれている研究報告も次の新しい事実が見つかることでその意味は大きく変わってしまうことも知っていると思います。


そこで少し立ち止まって、流布されている説、様々な情報、たとえ書籍になっている内容だとしても、それは「真実」ではなく、「そういう見方もある」「現時点ではそのように言われている」というように、単なる事実として受け止めてみることが必要だと思われます。


「サイエンスコミュニケーション」の視点で、流れてくる情報を鵜吞みにせず、事実は何かを自分の頭で考え、情報を受け止めことを心がけるようにすれば、このようなウーズル効果を防ぐことができ、さらに次の選択もより的確なものになるのではないかと思います。



参考サイト


私たちは情報をどのように受け止めているでしょうか?


現代は多くの情報で溢れていて、どれが事実かを見極めるのは難しい時代です。そして無意識のバイアスをもっていること、持たされていることになかなか気づけないことも多いと思います。
それでも「サイエンスコミュニケーション」の視点で、人はバイアスを持ちがちであることを意識し、高い頻度で触れているという理由でそのことを信じるのではなく、自分自身で調べることから事実を理解することを始めてみてはいかがでしょうか。







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