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「スーパーウーマン」だけじゃない、等身大のロールモデルを可視化する

北海道大学で、女性研究者の支援に長年携わってきた深谷さん。若手研究者を対象としたインタビューシリーズ『FIKA(フィーカ)』、そして上位職の女性研究者に特化した『LILAS(リラ)』。これらのプロジェクトを通じて、彼女が伝えたかったのは「研究者である前に、一人の人間としての生き方」でした。

なぜ、研究実績の羅列ではなく「人柄」や「視点」を語る場が必要だったのか。そして、その表現を託したサイバコに何を期待したのか。深谷さんの歩みとともに、プロジェクトの舞台裏を伺いました。


北海道大学 ダイバーシティ・インクルージョン推進本部 特任准教授 深谷桃子さん
北海道大学 ダイバーシティ・インクルージョン推進本部 特任准教授 深谷桃子さん


ー 深谷さんがダイバーシティや女性支援の仕事に関わるようになったきっかけは何ですか?

私がこの仕事に関わるようになったのは、2006年に大学内で女性研究者支援の取り組みが本格的に立ち上がるタイミングでした。でもさかのぼれば、そのきっかけは幼少期にあります。小学校低学年の頃、人形を操る「文楽」に憧れたことがありました。まるで生きているかのように人形を動かす技術に惹かれたのですが、親からは「女の子はなれない職業だよ」と言われて。それが人生最初の、性別による壁でした。社会科の教科書を開けば、最高裁判事の集合写真は男性ばかり。「なぜ、ここには女性がいないの?」という疑問はいたるところに転がっていました。だからこそ、2006年に女性研究者支援の仕事を始めたとき、自分の子供時代からの違和感と、今の社会の課題が一本の線で繋がったような気がしました。


高校進学の際、みんなが行くからという理由では学校を選ばず、「プールとマラソンの授業がない学校」を選びました(笑)。運動が苦手だったというのもありますが、自分の心地よさを優先して、自分で決めたかったのです。親も「あなたがそれがいいなら」と認めてくれました。中学生の私が貫いたその小さなこだわりは、今思えば、「多様性を認める」という今の価値観の根っこを形作ったように思います。


業務を通じて多くの女性研究者の人生に触れる中で、研究者の皆さんの人生って、実はすごく多様なのだということを知りました。結婚する・しないだけでなく、あえて別居婚を選ぶ人、子連れ出勤・出張をする人や介護帰省をする人。世間一般の「普通」という規範に縛られず、自分がどう生きたいかをフラットに、かつ強く持っている先生たちの姿に触れて、私自身も救われるような思いがありました。この発見を、もっと多くの人に伝えたいと思ったんです。


インタビューに答える深谷さん
インタビューに答える深谷さん

ー FIKAやLILASが果たしている役割とは何ですか?

その人自身の言葉で、多様な女性研究者の生き方を伝えていこうと始まったのがインタビューシリーズFIKAとLILASです。特に上位職を対象としたLILASでは、単なる苦労話やワークライフバランスの紹介にとどまらない、一歩踏み込んだ問いを大切にしています。上位職の先生方は、すでに素晴らしい実績を持っています。でも、大学のウェブサイトに載るのは業績ばかり。そうではなく、その人がどんな視点を持ち、将来どのように社会に貢献していきたいのかという「管理職としてのビジョン」を引き出してほしいと思いました。それは、いわゆる「大谷翔平のようなスーパーウーマン」を讃えるためではありません。今、学外からも女性役員や委員へのニーズが高まっています。しかし、ただ「女性だから」という理由でポストを打診されても、受ける側には葛藤が伴います。なぜ私なのかという理由をちゃんと伝えてほしいし、語ってほしい。組織を運営する上で、なぜその人が必要なのか。それを言葉にすることは、本人の覚悟を醸成するだけでなく、周囲の理解を得るための武器にもなります。黙っていては伝わらない部分を、記事という形にしていく必要がありました。先生たちが持つ、静かだけれど強い覚悟。それを引き出していかなければと思ったんです。


ー サイバコにはなぜご依頼いただきましたか?

FIKAの頃から一貫して感じていたのは、サイバコさんの「引き出し方」の巧みさです。私たちのコンセプトへの深い共感があり、何より先生方が身構えずに話せる空気を作ってくれる。どんなインタビューでもそうだと思いますが、相手が信頼に足る人物だと確信できない限り、なかなか本音の、特にパーソナルな領域の話は出てきません。サイバコさんにはサイエンスコミュニケーションの確かなバックグラウンドがあり、単なるメディアの取材とは一線を画す「専門性と人間性の両面を深く掘り下げる視点」がある。そこが大学側にとっても、取材を受ける先生方にとっても、大きな信頼の拠り所となっていました。


また、サイバコさんに提案いただいたLILASの表現手法は、これまでのロールモデル集とは異なるものでした。象徴的なのは、各先生の個性を象徴するような「植物」をモチーフにしたグラフィックです。最初は正直、「女性だからお花?」という固定観念への抵抗もありました。でも、サイバコさんと議論を重ねる中で、それは単なるお花ではなく、その人の研究観や人となりを立体的に表現するための植物なのだと。結果として、今までの大学広報にはなかった、ガラッと印象の違う素敵な世界観が生まれました。ベースとなるコンセプトだけでなく、シリーズ化した時の連続性や全体としてのまとまりをどう見せていくかという、「ブランディング」をお願いできたこともありがたかったです。


LILAS撮影の様子
LILAS撮影の様子

ー 今後サイバコはどのようなお手伝いができるでしょうか?

公開された記事は、学内外で大きな反響を呼んでいます。特に面白いのは、同じ大学内の先生方からの反応です。会議や研究の場では見えない、同僚の先生の意外な一面を知ったという声が多いのです。「あの先生、あんなことを考えて研究室運営をしていたんだ」といった発見が、一緒に仕事をする上でのポジティブな材料になっている。知っているはずの人の、知らない一面を知る。それが組織を柔らかくしていくのかもしれません。


北海道大学という長い歴史をもつ組織のなかで、私自身、ダイバーシティの種をまき続け、育てているところです。これまで抱いてきた「なぜ?」が、誰かの生きやすさに繋がればいいと思います。スーパーウーマンだけではない、等身大でかっこいい先生たちの姿を、これからもサイバコさんと一緒に描き続けていきたいですね。


FIKAとLILASの記事はこちらからお読みいただけます。

FIKA 

 
 
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