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モード1の科学とモード2の科学

更新日:2025年8月22日

科学のモード論をご存じですか?科学技術の生産スタイルをモード(様式)として整理したものです。モード論には主に旧来の科学と呼ばれる活動と、20世紀から21世紀にかけて生まれた新しい科学の潮流の違いを分析するために使われます。


21世紀に生まれた新たなモード2の科学とは?サイエンスコミュニケーションの誕生にもかかわるモード2の科学を解説していきます。


ネットワークで知が生産されるモード2の科学
ネットワークで知が生産されるモード2の科学




モード2の科学とは?


1993年、カルフォルニア大学バークレイ校の一室で、マイケル・ギボンズ、カミーユ・リモージュ、ヘルガ・ノウォトニー、サイモン・シュワルツマン、ピーター・スコット、マーティン・トロウは集まって一つのテキストを書き上げた。それがThe New Production of Knowledge(Gibbons et al. 1994; 1997)というテキストです。

日本語では現代社会と知の創造~モード論とは何か~という題名で書籍化されています。



1990年代に書かれた本ですが、現在の科学技術政策にも通じる部分があります。


簡単に言うとモード1の科学とは、従来の科学です。科学的探究を目的とし、専門分野内で科学研究が行われ、その成果をピアレビューという形で科学者が評価していくという閉じた系で行われる科学です。一方、モード2の科学では、社会的課題を複数の分野のネットワークで考え、取り組む科学です。例えば地球温暖化対策は、決して一つの分野では解決できない課題です。このようなより大きな課題の解決には、分野を超えたネットワークが必要で、その評価も分野内の研究者による評価ではなく、社会的貢献を社会から評価されます。



モード2の科学は、科学的知の生産がシステム化され、社会的要請にこたえるだけの供給力が蓄えられたことと複雑な課題に対し創造力が伴う解決策を見出さなければならなくなったという社会側の需要があります。


分野を融合した科学

モード2の科学には4つの分野融合があります。一つは課題解決のために協力する分野融合です。そして2つ目は経験的要素と理論的要素を組み合わせて解決するという分野融合です。3つ目はジャーナル以外で成果が共有される科学的知見の共有がオープン化されるという面での融合です。4つ目は、モード1では科学は全体的で、いわゆる汎用的な知が求められますが、モード2ではその場だけの知恵というものもあり、また知識も応用された先で実践と融合してダイナミックに変化します。このようなダイナミックな変化そのものを受け入れていくのがモード2の科学です。


サイエンスコミュニケーションのニーズ

モード2の科学ではコミュニケーションによる知識の流動化と共有、そして融合が目指されています。そのため、コミュニケーションが決定的に重要であるとされています。モード2のサイエンスコミュニケーションにはいくつかの側面があります。

ひとつは研究分野同士をつなぐサイエンスコミュニケーションです。モード2では研究から生まれた知を社会実装することが求められていますが、研究はそのような一足飛びに結論が出るような活動ではありません。そこで求められるのは、すでに確立した知識を他分野に応用するという形での実装化です。例えば、物理学や数学の高度な計算は金融工学に応用され、新たな分野を築きました。このようにサイエンスコミュニケーションではある分野の知をある分野に転用するためのコミュニケーションが求められています。

2つ目は社会の現実と科学との接続です。科学的な問いと社会が求める問いは違います。社会の課題と科学の知をどう接続していくのかというのはこれからの科学と社会の大きな問いです。学術的に意味のある問いだけを求めても社会の本当に解決しない課題には接続できないかもしれませんが、社会的課題からのアプローチだけではより大きな問いに答えられません。社会的ニーズと科学知の意味を丁寧につないでいく必要があります。

最後に、科学と社会的な波及効果をどう結び付けるのかという課題があります。モード2の科学では、研究活動は論文を出版して終わりではありません。その後、ビジネスとして、公的な行政として、もしくは市民活動として、どのように社会が科学的な知識を活用できるのか、そこまでつなぐのが、モード2のサイエンスコミュニケーションです。

モード2のサイエンスコミュニケーションでは、科学と社会という独立した2つの世界をつなぐのではなく、どちらも両輪駆動型で知の創造を行う融合型のつなぎ方が必要となります。


モード2の科学への批判

モード2の科学が発表されたのち、2割ぐらいの論文がモード論に批判的な見方を示しました。ヘッセルズとレンテ(2008)はモード論批判論文をレビューし(Hessels and van Lente 2008, 749)、モード2の科学のニーズの需要とモード2の科学以外の枠組みでの学際研究があることを指摘しています。モード論を再検討した勝屋はモード2は学術論文の中にとどまらない科学形態のため、旧来の学術的な論文からはモード論の批判はできないとしています。ただ、行き過ぎたモード2の科学では、科学だからこそできる探究を阻害してしまうかもしれません。


モード2の科学に近づいている科学政策

2021年から始まった第6期の科学技術イノベーション基本計画では、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指しており、科学の分野の強化だけでなく、科学と社会、科学分野間の流動性を高めることが求められています。その中で、JSTではムーンショット型の学融合的な研究グラントや共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)などを展開しています。これはまさにモード2の科学への支援です。

2026年には第7期の科学技術イノベーション基本計画が始まります。その中でも共創や科学的知識の流動性はとても重要なテーマになると思われます。

これまでの科学のためのサイエンスコミュニケーションと、モード2のためのサイエンスコミュニケーションは異なる要素が求められているのです。





参考文献

ギボンズ、M. 小林信一監訳『現代社会と知の創造:モード論とは何か』丸善ライブラ リー,1997

Hessels, L. and van Lente, H. 2008: “Re-thinking new Knowledge Production: A literature review and a research agenda,” Research Policy , 37(4), 740 ― 60.




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