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ミュージアムから見る社会 ~韓国の科学系ミュージアム~

執筆者の写真: mori sayamori saya

昨年末、学会に参加するため初めて韓国へ行きました。

学会の会場は大学でしたが、ミュージアム研究をする身としては、ぜひミュージアムを見学したい!と計画。ソウル大学の先生や大学院生さんのご協力もいただき、二館訪問することができました。

科学系ミュージアムは他の館種に比べて地域色がでにくいという特徴があります。

それは、展示物を通して科学の原理やしくみという万国共通のものを伝えているためですが、国が違うと違いはあるのか?という視点でレポートします。



今回訪れたのは、ソウル郊外にある国立果川科学博物館(Gwacheon National Science Museum)とソウルにある国立子ども科学館(National Children's Science Center)です。



国立果川科学博物館

地下鉄から上がってくると見える国立果川科学博物館(SCIPIA)
地下鉄から上がってくると見える国立果川科学博物館(SCIPIA)

国立果川科学博物館はソウル駅から地下鉄で30分程度の場所に位置します。 SCIPIAという愛称で親しまれ、学校団体の見学でもよく利用されているそうです。

地下鉄から地上に上がると目の前に大きな博物館の建物があり、アクセスは抜群でした。

科学博物館の建物を中心として昆虫館や恐竜パーク、ロケットの屋外展示、キャンプ施設、プラネタリウムなど様々な施設がこのエリアに設置されており、丸一日あっても回りきれないくらい充実した内容になっています。


施設の全体像(Gwacheon National Science Museum ホームページより)
施設の全体像(Gwacheon National Science Museum ホームページより)

入館チケットはオンラインでも発券機でも購入できますが、現金不可ということで、クレジットカードが必須です。今回、バスもT-Moneyカード(日本のsuicaのようなカード)しか使えなかったりカフェもカードオンリーだったりとキャッシュレス社会であることをとても感じました。




印象的だったのがアーティストとのコラボレーション展示。生命の展示エリアでは導入部にアーティストが製作した作品を展示し、標本や実験系の展示が多いエリアのイントロダクションとして入りやすい雰囲気を醸成していました。

作品自体も鮮やかな色づかいとポップなイラストで生態系の多様性が表現されていて、展示室をパッと明るくしていました。



eスポーツやゲームの展示も印象的でした。

展示室の壁三面にプロジェクターでゲーム画面が投影されており、手元の端末で自分のアバターを作成し画面上に送る、という体験ができるようになっていました。他の人が作ったアバターもたくさん画面上を歩いており、ゲームの中に没入したような感覚で展示を楽しめました。

個別のブースでeスポーツを体験できるコーナーもあり、多くの人でにぎわっていました。

また、将来の仕事についてAIと一緒に考えることができるコーナーもあり、顔写真を撮るとAIがその人に合った職業を提案してくれる「AI顔分析」という展示物もありました。キャリア教育という面からもAIという科学技術の面からも楽しみながら学べる工夫がされていました。


他にも素材の展示(ナイロンの合成など)や航空系の展示(揚力のしくみの展示が10以上!)にも力が入っており、一つの現象について理解するための展示がいくつもあるのが印象的でした。私のイメージでは日本の科学館は分野を満遍なく比重に偏りがないように作られていることが多い印象ですが、こちらの科学博物館は普遍的なトピックはピンポイントでぐぐっと深堀りできるような、そして最新のトピックは余すことなく捉えた展示構成で新鮮で楽しかったです。



国立子ども科学館


ソウルの名所、昌慶宮(チャンギョングン)から近い場所にある国立子ども科学館。

こちらはSciJoyという愛称で、展示室のほかにもプラネタリウム、4D映像館などの施設があります。展示室は1階と2階に分けられ、入場は2階から入り、進んでいくと1階に降りて出口に出る、というような動線でした。


国立子ども科学館
国立子ども科学館

展示室の2階は想像広場、1階は感覚広場と分けられており、中でも一番印象に残っているのが想像広場の「エネルギーの森」という巨大なからくり装置です。


展示室に入って初めに見るのがこの展示。その規模に圧倒されます。
展示室に入って初めに見るのがこの展示。その規模に圧倒されます。

何カ所かに設置されているハンドルを回すとビリヤードの玉やボーリングの球が上に上がっていき、一番上まで上がるとあとは位置エネルギーから運動エネルギーへの変換でどんどんコースを下っていきます。様々なコースがあるので、自分が動かしたボールがどこへ行くのか少しでも目を離すとあっという間に追えなくなってしまいます。

ほとんどが木材で作られているため、ボールがカラカラと音を立てながら通るのも楽しさを演出しています。

ここまで大きな規模のからくり装置はなかなか見ることはありませんが、このような展示装置でエネルギーの変換を伝えるものは科学館の定番展示ですよね。




他にも恐竜や合わせ鏡の展示、サイクロイド、錯視、砂のクラドニ、磁性流体などおなじみの展示を多く楽しむことができましたが、デジタル機器を用いたハンズ・オン展示が多くあったのも印象的でした。


石についているQRコードを展示台でスキャンすると、端末上でその石を溶かしたりミキサーにかけたりすることができ、最終的にどのようにしてできた岩石かということがわかるような展示(写真左)や、AR sandboxの展示では白い砂にプロジェクターで投影をして、砂を掘ったりすると中に隠れていた生き物が出てくるような体験(写真右)もできました。

私自身も研究でAR sandboxを使っているのですが、今回訪れた2館どちらにもあったのでとても驚きました。ちなみに国立子ども科学館では水辺の生き物を知るための展示でしたが、国立果川科学博物館では水がどこから来てどこに流れていくのか、という展示の一部として設置されていました。


また、比較的新しい展示エリアでは環境問題が取り上げられていました。水資源や地球温暖化、エコシステム、ゴミの問題など、体験やシミュレーションを通して考えさせたりデシジョンメイキングを促すような展示が多くありました。これは日本の科学館も同じで新設やリニューアルの際には環境分野に大きくスペースを割く傾向があるようです。



最後に


今回訪れた館はいずれも国立ということで、規模も大きくたくさんの展示を見ることができました。時間の都合ですべて見ることはできなかったのと、今回行けなかった館もあるので次に行くときはゆとりのあるスケジュールで計画したいです。

国立果川科学博物館では扱っているテーマが先端のものが多くあったのがとても印象的でした。eスポーツや職業選択など中高生が楽しみながら学べるような内容で展示手法も工夫されていたのがとても新鮮で、科学系ミュージアムが扱うテーマの幅の広さが特徴的でした。国として科学技術の振興に大きく力を入れているということなのかもしれません。


そして今回振り返って改めて思ったことは、まだまだ国内のミュージアムに行けていないな、ということです。国によって展示のしかたやトレンドが違うかもと考えてみても、もしかしたら知らないだけかもしれない…と思うと訪れたい館がたくさんあるので、どんどんいろんな館に足を運んでこのレポートも更新していきたいと思います。



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