答えが出ない問いに寄り添い、言語化する
- mori saya
- 8月29日
- 読了時間: 6分
更新日:9月10日
北海道の多様な地域課題に対して、産学官が連携しながら持続可能な社会を共創することをめざしてスタートした「チャレンジフィールド北海道」。その推進を担った現場では、かたちにならない変化や、人と人との関係性をどう捉えるかが常に問われていました。
プロジェクト終盤「取り組みの意味を問い直し、言葉にしたい」というご相談から、サイバコが質的調査・分析のサポートを開始。関わった人々の視点や揺れ動きを丁寧にひもとき、対話から見えてきたものを報告書としてまとめました。
今回は、総括エリアコーディネーターとしてプロジェクトを牽引された山田真治さんに、現場での葛藤や気づき、サイバコとの協働を通して見えてきた“人が動くプロセス”について伺いました。

㈱日立製作所 研究開発グループ シニアチーフエキスパート/ 経済産業省産学融合拠点創出事業「チャレンジフィールド北海道」 元総括エリアコーディネーター(現 産学融合アドバイザー)
山田 真治さん
ー プロジェクトに関わるきっかけを教えてください
私は、長く日立製作所の研究所で働いてきたのですが「自分たちは、社会に十分貢献できているのか?」という問いをずっと持っていました。たしかに、世界的に見ても優れた技術は多い。でも、それを社会にどう還元し貢献するの意識と行動があまりに希薄に感じられたんです。
もともとB2B的な事業性格やここ何年かのプラットフォーム事業の強化もあり「自分たちは良い道具を作る。それをどう使うか、リスクを負うかはユーザー任せ」とも感じられる空気に少なからず違和感と歯がゆさを感じていました。
同時に、私も責任ある立場になり優秀な人材を預かりながらも、彼ら・彼女らに働き甲斐を感じてもらえているのか、という問題意識を持っていました。そのような課題意識で、人を活かした地域連携活動ができないかと考え、茨城県で有志を集めて活動を始めました。それを見ていた人たちがいたようで、ノーステック財団から「チャレンジフィールド北海道」に関わってほしいと声がかかり、関わらせていただくことになりました。
ー どのようなことを大切にしながらプロジェクトに参加されていたのでしょうか?
「人と地域を中心に」を活動の真ん中に置いていました。関係者にも繰り返しお伝えしましたし、私自身も手触り感のある地域連携に身を投じてこれまで抱えてきたモヤモヤに決着をつけたいと思っていました。そのような思いは、「チャレンジフィールド北海道」のHPやnoteに吐露していますので、是非ご覧下さい(チャレンジフィールド北海道)。
それでも、私の思いをメンバーと共有するのには時間がかかりました。メンバー間で産学融合に対する考え方やアプローチも違いましたし、当然抱えている背景事情も違う。見えやすい成果やKPIが優先される中で、私が本質的な成果とこだわる、人や組織や地域の変容を上手く言語化して説得力を持って伝えられなかったことも大きいですね(笑)。特に、4年半のプロジェクトの最初の1年半はコロナ禍で出張もままならず、忸怩たる思いをしていました。その反動もあり、コロナ禍後は「やってみる」「汗をかく」を掲げ、前例にとらわれず本当に色々なことにチャレンジしたつもりです。3年間で、立ち上げ→実践→自走化の目途と、コーディネーターの皆さんにはジェットコースターのような活躍を求めていました。酷いリーダーだったと思いますよ(笑)。

ー サイバコへご依頼いただいたのは、プロジェクトの終盤でした。 どのような課題や期待感があったのでしょうか?
自分たちがやってきたことに、どれだけの意味があったのか。自分たちでも考えてきたつもりですが、それを第3者の目でも見て欲しかったのです。目に見えやすい成果指標よりもむしろ、人のつながりや動き、変化の胎動などの見えにくく潜在する芽を我々と一緒に掘り起こして欲しいという思いが強かったです。難題ではありますが、人や組織や地域が変容に向かうプロセスを丁寧に拾い上げて、構造化や知識化を誰かに頼りたかった。そういう意味で、サイバコさんには、「評価」というより「協働」であり「研究」をお願いした感覚でした。
ー サイバコが提案したのは関わった方々への調査を通して質的に分析することでした。
これにはどのような印象がありましたか?
サイバコさんによる分析の過程で明らかになったのは、関わった人たちが、それぞれの立場からプロジェクトをどう捉え、どのような意味づけをしていたのかということでした。単なる作業の分担ではなく、「自分はここまで関わる」「これは自分の役割ではない」といった線引きやスタンスの違いが、具体的な振る舞いとして現れていたのです。
その結果、プロジェクト全体としては一見まとまっているように見えつつも、内側では多様な認識や温度差が交錯していたことが浮かび上がってきました。それは“失敗”でも“成功”でもなく、まさに「人間が関わる場」だからこそ生まれる現象でした。
私自身、最も関心があったのはその「人間の動き」でした。農業や林業といった産業のサプライチェーンの整理も大事ですが、それを動かすのはあくまでも“人”です。そして人は、気分に左右されたり、ひねくれたり、急に熱中したりもする。そういった人間らしさが、プロジェクトの本質的な推進力になることもあるのです。
ー 報告書をご覧になり、どんな印象を受けましたか?
相当に難しいことをお願いしていることは自覚していたので、満点の報告書、ということはないですよ(笑)。しかしながら、報告書を読みながら、私の中にあったモヤモヤしていたものが可視化され、言語として提示されることで、「ああ、自分が抱いていたものはこういうことだったのか」と気づかされる場面が何度もありました。これは非常に大きな価値だと思います。
たとえば、私は読書が好きなのですが、本を読んでいて「自分が長年感じていたことを、ここまで的確に言葉にできる人がいるのか」と驚くことがあります。サイバコさんの報告書にも、そうした“気づき”が込められていたように思います。まさに、「追認としての読書」のように、自分の信念や直感を整理し直す手がかりをもらえたのです。
言語化は、今あるモヤモヤを解消するだけでなく、新たな“創造的なモヤ”を生み出す契機にもなります。整理された知見をもとに、次なる問いや可能性が広がっていく、そのプロセス自体が、非常に重要なのではないかと感じています。

ー プロジェクトを終えて、今どんなことを考えていますか?
やっぱり、「人と人との関係性」が一番大事だなと思います。技術とか制度とかも大事ですが、最終的にコトを起こす、動かすのは人間ですから。そのつながりや取り組みを周りの関係者がどうやって支援するかのか、どうやって発展させてゆくのか。
チャレンジフィールド北海道は、まさに“その実験”だったように思います。あちこちぶつかりながら、でも何とか進めてきた。結果的に華々しい成果があったとは思っていないけれど、それでも「ここまでやった」という納得はあります。
あとは、それをどう次につなげるか。自分の中でもまだ道半ばですが、仲間と一緒に可能性を模索しています。
ー 最後に、私たちサイバコへのコメントをいただけますか?
“評価”という言葉が嫌いなんですよ、私は。なにかを測るとか、上から見るとか、そういう感じがして。でもサイバコさんは、そういう感じがなかった。半当事者として、事実を受け止めて、咀嚼して、言葉にしてくれる。だから任せられました。
“答えが出ない問いに、一緒に付き合ってくれる人たち”
そういう存在がいるのは、ほんとうにありがたいことです。


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