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「科学」を科学する、Science of Scienceとは

更新日:7月11日

SciBacoフェロー 奥本素子




公平な科学支援とは?


基礎研究にもっと力を入れないと…。研究費応募に年齢制限を設けているのは不公平?

科学に対する支援の分配についてはどのような形でも賛否両論があるもの。


適切な研究支援を考えるために近年取り入れられているのが、科学研究の成果をデータ化し、そのデータから科学の成果に至るメカニズムを解明する研究、Science of Science(サイエンス・オブ・サイエンス)です。先日、神戸でScience of Scienceの研究会があったので、勉強しに行きました。(神戸牛も元町中華街にもよらず、ただひたすら雨の中向かったかいがありました。)



研究会の看板
研究会の看板、SciSci(サイサイ)と訳すらしい、かわいい。

科学の成果や研究者の成功についての研究の歴史は、1960年代には始まっています。論文や書籍を量的に調査したり1)、ノーベル賞受賞者にインタビューし、そのキャリアから研究の質について迫ったり2)、研究室での活動を文化人類学的調査により明らかにしようとしたり3)、その手法は様々。


ただ、2000年代以降科学論文の電子化、データベース化が進むことによって、より広い範囲のデータを多角的に分析できるようになりました。それにより、より客観的指標を用いて研究支援の在り方を考えていくことが「できそう」になっています。


また、追い風になっているのが政策をエビデンスを用いて組み立てていくEBPM(Evidence based policy making)の流れです。日本でも2017年からはEBPMが推進されており、科学技術政策においてもデータに基づいた科学技術イノベーションの方向付けが模索されています4)。


Science of Scienceがもたらす研究革命!


Science of Scienceの研究では、論文そのものに加え、論文の被引用数や引用ネットワーク、著者の属性や共著関係、研究資金の配分データ、特許との関連、さらには論文本文のトピック情報など、多様なデータが分析対象として使われます。これらのデータをもとに、研究者個人の実績や、ある分野・大学の研究力を数量的に測定するのです5)。


実は皆さんもよく目にする大学ランキング、例えばタイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングも、この手法を応用したものです。THEでは論文の被引用数や国際共著の割合、研究収入などの指標を組み合わせて大学の研究力を評価しています。世界の大学を横並びで評価できることによって、個々の大学は自分たちの強みや投資するべき課題などを客観的に見ることができます。一方で、画一的な評価軸からこぼれおちる大学や研究の特質などもあり、独自の発展を妨げてしまうという懸念もありますが…。



Science of Scienceではどんな研究があるの?


Science of Scienceはこれまでどのようなことを明らかにしてきたのでしょう。


例えば、基礎研究と応用研究のどちらをより手厚く支援していくべきなのか?という疑問。アメリカの研究助成金を基礎研究/応用研究に分類し、それぞれが後の特許にどう結びつくかを追跡した研究では、基礎研究として分類された助成金も、応用研究と遜色ない、あるいはそれ以上に特許引用に結びついていることを示し、「基礎研究は実用性が低い」というわけではないことが分かっています5)。


では若手研究者に優先的に研究資金を支援すべきでしょうか?確かに、ノーベル賞受賞者の研究を調べた研究では、30代までの業績が受賞していることが多いことが分かっています6)。ただ、研究者の生産性は「若い時に一律に高い」のではなく、ホットストリークという高い生産性を示す時期があり、それはランダムであることが分かっています7)。またメンター(指導教員)の質が高いほど、弟子(protégé)のその後の研究成果の質・インパクトが高まることなどが報告されています8)。つまり若手の支援の在り方は財政的な支援だけではないという結論になります。



AIと研究活動への広がり


近年ではAI(人工知能)が研究活動そのものを支援する場面が増えており、Science of Scienceの研究対象もAI利用の実態や影響へと広がりつつあります。


すこし傍証的な研究にはなりますが、短編小説を書く際に生成型AIに助けてもらうと創造性の低い作家では創造性が増しました。しかし生成型AIを活用した物語は、人間のみが書いた物語よりも互いに類似性が高いことが分かり、個々の創造性は増しますが、全体的な独自性が下がるという結果になりました9)。


また先日の研究会の招待講演の中で紹介されていた久壽米木さんの研究もAIと研究の関係に迫ったものでした。その研究では大規模言語モデルの使用が科学論文の生産を3割ほど押し上げていることを明らかにしました10)。特に科学論文などは非ネイティブにとってはAIに手伝ってもらいながら執筆したいですよね。わかるわかる。ただ、久壽米木さん達の研究では、その支援をたくさん受けてかかれた論文の質についても評価しています。するとたくさんAIを使って書いた論文のほうが質が低いと評価される傾向にあることも明らかになっています。逆にちょっと使った研究の質は、使わなかった研究よりも評価は高く、うまく使いこなすというのが重要なようです。うまく使いこなすのがカギとは、元も子もないですが…。


このようにAIを使うことによるメリットデメリットもScience of scineceによって明らかにされつつあるのです。


Science of Scienceの限界


Science of Scienceにも限界があることは押さえておく必要があります。第一に、多くの研究は「論文」という成果物を指標として採用していますが、これは論文として発表できた成功例しか捉えられないという問題があります。データ化できる情報のみからしか成功事例が図れないため、その他の要因が探れないという課題を理解しておく必要があるでしょう。


SciBacoでは現在、質的にScience of scienceを行おうとしています。例えば、地域連携研究を質的に調査していくと、社会実装に近い研究ほどコミュニケーションコストが高くなるということが分かりました。研究結果だけでなく、研究過程を調査することによって見えてくるものもあり、質的な調査もまだまだ戦えます!もちろん量的な分析か明らかになる汎用的な結果も新たな研究支援の知見をもたらしてくれるので、引き継続き追っていく必要はありますが。


サイエンスコミュニケーションにおいても、客観的で俯瞰的に科学を見てみることによって、限られたリソースの中で有益な支援の方法が見いだせるのでは、なんて思いました。


ちなみに私が一番使うAIは、読んだ本をきちんと同じ書式にそろえてくれる文献リストの作成です↓、実はこれが地味に今まで時間を食っていたことが分かります。これから論文投稿する際には、DOIを入れたらきれいにリスト化できるとかの仕様になりませんかね…



【引用文献】

1)  Price, D. J. de S. (1963). Little Science, Big Science. Columbia University Press.(邦訳:島尾永康訳(1970)『リトル・サイエンス、ビッグ・サイエンス:科学の科学・科学情報』創元社.)

2)Zuckerman, H. (1977). Scientific Elite: Nobel Laureates in the United States. Free Press.(邦訳:金子務監訳(1980)『科学エリート:ノーベル賞受賞者の社会学的考察』玉川大学出版部.)

3)Latour, B., & Woolgar, S. (1979). Laboratory Life: The Construction of Scientific Facts. Sage Publications.(邦訳:立石裕二・森下翔監訳、金信行・猪口智広・小川湧司・水上拓哉・吉田航太訳(2021)『ラボラトリー・ライフ:科学的事実の構築』ナカニシヤ出版.)

4)佐藤靖・松尾敬子・菊地乃依瑠(編)(2024). EBPMの組織とプロセス:データ時代の科学と政策. 東京大学出版会.

5) Li, D., Azoulay, P., & Sampat, B. N. (2017). The applied value of public investments in biomedical research. Science, 356(6333), 78-81. DOI: 10.1126/science.aal0010

6) Jones, B. F., & Weinberg, B. A. (2011). "Age dynamics in scientific creativity." PNAS, 108(47), 18910-18914.

7)Liu, L., Dehmamy, N., Chown, J., Giles, C. L., & Wang, D. (2021). "Understanding the onset of hot streaks across artistic, cultural, and scientific careers." Nature Communications, 12, 5392.

8) Ma, Y., Mukherjee, S., & Uzzi, B. (2020). Mentorship and protégé success in STEM fields. PNAS, 117(25), 14077-14083. DOI: 10.1073/pnas.1915516117

9)Doshi, A. R., & Hauser, O. P. (2024). Generative AI enhances individual creativity but reduces the collective diversity of novel content. Science Advances, 10(28), eadn5290.

10)Kusumegi, K., Yang, X., Ginsparg, P., de Vaan, M., & Yin, Y. (2025). Scientific production in the era of large language models. Science, 390(6779), 1240-1243. DOI: 10.1126/science.adw3000








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