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思い込みを外すサイエンスコミュニケーション

更新日:7月4日


「あ、そういうことか」と思ったその瞬間、思い込みが始まっているかもしれません。


私たちは、見たもの・聞いたことに意味を求め、自分の知識や経験で理解しようとします。その働きが、思い込みを生み出すこともあります。では、どうすればその思い込みに気づき、手放すことができるのでしょうか?その鍵の一つが、サイエンスコミュニケーションです。


エジプトガンの親鳥の行動は?


南アフリカ共和国に生息するエジプトガンの親鳥は、ヒナを狙っているヒョウの前に出て、怪我をしたかのように翼を引きずり、注意を引きつける行動を示したといいます。この行動で驚くのは、ヒョウという凶暴な相手に向かって嘘の演技をしてまで、「気を逸らす」という方法をエジプトガンが使えるということです。

じつは、エジプトガン以外にも、ヒナを危険から守るために同様の行動を見せる鳥は多いといいます。 このケースでは、ヒョウはエジプトガンを襲おうと思ってはいなかったらしく、ほどなく他の餌に向かっていったので、親鳥はヒナたちと再会し、難を逃れたようです。



演技をして相手の「気を逸らす」という方法は、人もさまざまな場面で使います。自分にもそうした経験がある、という方もいるのではないでしょうか。

だからこそ、ヒナを守るためにヒョウの注意をそらそうと、親鳥は身を犠牲にしようとしているのではないかと想像してしまいます。さらには、「子どもを守る美談だ」、あるいは「子どもを守るのは親の務めだから当然だろう」「親が犠牲になるのだから、ヒナに感謝されて当然」といった考えを持ってしまうこともあるのではないでしょうか。


科学的事実にかかわらず、私たちが外から見て抱く感想や評価は、あくまでも自分の経験や価値観に基づいたものであり、事実かどうかはわからないことの方が多いのです。


「思い込み」って?


このように「思い込み」は、さまざまな場面で生じてしまいます。思い込みとは心に抱く信念であり、その内容が事実と違っていたり、他の人の価値基準から見て偏っていたりする場合もあります。

では、なぜ人は思い込んでしまうのでしょうか。

私たちの脳には、情報の欠けている部分を自動的に補うという機能があることがわかってきています。

エジプトガンの親鳥の例では、「親が子どもを守る」という一般的なイメージや過去の経験をもとに、「ヒョウへの行動はヒナを守るためだ」と解釈する人が多いでしょう。このように、脳は状況を詳細に説明されなくても、既存の知識や経験から不足する情報を補って理解します。

この補完機能によって、思考や判断にかかる時間と労力を節約することができます。一方で、知識や経験が乏しい場合は、「奇妙な行動だ」としか捉えられないかもしれません。

つまり、同じ場面を見ても、人によって異なる「思い込み」が生じるため、理解の仕方にも差が出てきます。また、経験を重ねれば重ねるほど、「思い込み」が増えていく可能性もあります。


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「思い込み」を外すには?


気付かないうちに増えてしまう「思い込み」。

では、どうしたら外すことができるのでしょうか。

その一つの方法が、サイエンスコミュニケーションです。

サイエンスコミュニケーションでは、一人ひとりの思いを大切にしながら、対話の場をつくり出します。その中で、「なぜ自分はそう考えるのか」「なぜ他の人は違う考えを持っているのか」といった問いが生まれます。こうした問いをきっかけに、自分の思考を見直し、「思い込み」に気づくことができるのです。

あるいは、人や物を丁寧に観察する場をつくることもあります。そうすることで、事実と、思いや意見とを明確に分けることが可能になります。

ただし、思い込みは知識や経験の数だけ増えていくので、常に「自分の理解は本当に正しいか?」と意識的に立ち止まり、自分の考えを振り返る場に身を置くことあるいはそのような場を自分自身で創り出すことが必要かもしれません。



参考:迫るヒョウ、怪我したフリで子を守る鳥https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/120600108/?P=1



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