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社会的インパクト評価は「羅針盤」


 社会課題解決の取り組みは成果が表れるまでに時間を要します。その進捗を確かめ、未来の意思決定に活かす仕組みが「社会的インパクト評価」です。多様な関係者が評価的マインドを持ち、問い直しと見直しを重ねること。その柔軟さこそが未来を共創する力となるのではないかと考えています。



未来を見据え、いまを動かす


 社会課題解決を目指すプロジェクトやプログラムには、限られた資源の中で効果を最大限に引き出し、社会への影響力を高めることが期待されています。とはいえ、年単位の長期的な取り組みでは、社会への影響として現れるのが、数年先、数十年先ということも珍しくありません。


  それでも、活動が目的に向かって適切に進んでいるかを継続的に検証することは不可欠です。そこで重要となるのが、「未来のインパクトを予測し、現在の戦略的な意思決定に活かす」ための社会的インパクト評価です。これは単なる過去の振り返りではなく、未来志向のマネジメントツールとしての可能性を秘めています。



「見える化」から「学び」そして「価値を引き出すプロセス」へ


 社会的インパクト評価は、学術研究の枠組みから生まれたものではなく、社会貢献事業の現場で「いかに効果を証明するか」という実践的なニーズから発展してきました。そのため、従来の評価研究の中心的テーマとされることは少なく、手法もまだ確立途上にあります。

 「社会的インパクト評価」という言葉が広まり始めた当初、ここで使われる「評価」は本来のエバリュエーション(Evaluation:価値判断を伴う総合的な評価)ではなく、メジャーメント(Measurement:特定指標に基づく測定)の意味で用いられていました。


 この「インパクト測定」の考え方は、企業やNPOといった民間セクターの役割が拡大したことを背景に、「投入した資源がどのような社会的価値を生み出したか」を市場メカニズムの中で定量的に把握したいというニーズから生まれたものです。具体的には、投資家や金融機関が社会貢献活動への投資判断を行うための実務的指標を求めたことに応じて発展してきました。その目的は、効果的な取り組みを「見える化」し、市場を通じて広く認知・流通させる仕組みを強化することにありました。まさに、時代の要請に応じて発展してきたと言えるでしょう。


  一方、より学術的側面を持つエバリュエーションは、説明責任の遂行に加え、評価を通じて組織自身の学びと成長を促し、新たな知見を生み出すことを重視しています。評価専門家コミュニティがこれを支え、研究と実践の両面から分野全体の発展を牽引しています。


このように「評価(エバリュエーション)」と「インパクト測定(メジャーメント)」は異なるルーツを持ちながら、現在では両者の強みを融合させ、多角的かつ実用的な手法を構築する「橋渡し」の試みが活発に進められています。


 実際、内閣府(2016)「評価の目的、活用、効果・意義」の中で、「『評価』は『監査』や『査定』のような検査ではなく、『価値を引き出す』プロセスである」と強調しています。これはまさに、「価値(value)を引き出す」というエバリュエーション本来の思想を重視している表れと言えるでしょう。また、評価プロセスを「1.計画、2.実行、3.分析、4.報告・活用」の4つのステップで構成されると示しており、この構成からは、事業全体を俯瞰して評価する「プログラム評価」の考え方が色濃く反映されていることが伺えます。


内閣府(2016)社会的インパクト評価の推進に向けて
内閣府(2016)社会的インパクト評価の推進に向けて

評価的マインドで未来を育む


 日本国内では、プログラム評価の考え方を意識的に取り入れた社会的インパクト評価が展開されています。これは、社会的インパクト評価を、単に成果やインパクトを「点」で測定する作業に留めず、事業の「マネジメント」という一連の「線」の活動の中で連続的に行うプロセスとして捉え直したことを意味します。この転換により、「より良い意思決定」や「継続的な改善」のために評価を能動的に活用するという考え方が、着実に定着しつつあります。

 社会的インパクト評価は、社会からの要請であると同時に、今後の社会課題解決プロジェクトを効果的に推進するためにも不可欠です。多くの関係者がこのプロセスに関わることを踏まえると、専門家だけでなく一人ひとりが「評価的マインド」を身につけ、日常の仕事や生活に活かすことが極めて重要です。



問い続け、見直し続けるために


 「評価的マインド」を広く「自分ごと」として浸透させるには、知識として理解するだけでなく、その重要性を実感できる体験が欠かせません。文章を読むだけでは、日常的にその思考を活用するのは難しいでしょう。


 私たちは、サイエンスコミュニケーションの手法を応用し、多くの方が「腹落ち」できるワークショップを企画・実施しています。今後も工夫を重ね、その精度を着実に高めていきます。


 さらに、各プロジェクトで何が起こり、どのように社会的インパクトにつながったのかを、関係者へのインタビューなどの定性調査を通じて掘り下げることも欠かせません。長期的かつ多角的に影響を評価するためには、当初の指標も常に見直し、必要に応じて修正する柔軟さが求められるからです。


 こうしたサイエンスコミュニケーションの取り組みを通じて、私たちはより良い未来を共創していきたいと考えています。




<参考文献>

今田 克司2022 社会的インパクト評価の系譜 日本評価研究 22 (2), 27-37,

内閣府(2016)社会的インパクト評価の推進に向けて


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