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【CIRCO】第1回 “GOOD DESIGN COLLECTION 1950s-2020s”

更新日:2023年8月27日

“CIRCO”(チルコ)とは,ラテン語で「歩き回る」の意味。その言葉が転じて、探し回る、探求するという意味も含んだ“Resarch”という言葉が派生した。この連載は、サイエンスライターの室井宏仁が、博物館や美術館を巡りながら,科学や技術のあれこれについて考えたことを書いていく、連載企画である。

第1回 “GOOD DESIGN COLLECTION 1950s-2020s”


今年の夏は,例年に比べてさらに厳しい暑さになるらしい。街を歩くと,いつの間にか風鈴の音も聞こえるようになった。風が吹いたとき聞こえるチリンチリンという音は夏の風物詩だが,あの音には本当に人間の体感温度を下げる効果があるという。風鈴とは,実は夏を快適に過ごすうえで実に理にかなったデザインなのだ。 風鈴に限らず,私たちの周囲にはさまざまなデザインをもつ製品があふれている。それらはどんな背景をもち,どうやって生まれたのか。モノにあふれた現代日本の中心地,丸の内で開催されている"GOOD DESIGN COLLECTION 1950s-2020s”展でデザインをCIRCOした。


『デザインは,人や社会の“役に立つ”ことを目指し,過去に学び今を掘りさげること,そして未来を見据えることによって生み出されてきました』本展覧会のウェブサイトにはこう記されている。デザインを含め,あらゆる芸術や創作は,過去の積み重ねから新しいものを作りだす営みである。目的は違っても,その過程は科学技術が発展し,広まる流れとも似ているのではないだろうか。



会場では1950年代から2000年代までのグッドデザイン賞受賞対象が,実物も多く交えて展示・紹介されていた


本展覧会では,過去のグッドデザイン賞の受賞対象のうち70点を,そのときどきの社会背景とともに解説している。


興味深いものの一つが「舗装用材,インテリアタイル ソイルセラミックス(1997)」だ。セラミックスとは,無機物を加熱処理し焼き固めることで製造される素材の総称。硬く,耐熱性に優れ,電気を通しにくいなどの特徴から,タイルをはじめ建設材料としても古くから用いられてきた。



「舗装用材,インテリアタイル ソイルセラミックス(1997)」の実物。養生時の温度が低いため,土の独特な風合いや色味を残すことができる,という特徴もあった


90年代後半は,廃棄物処理問題など地球環境への危機意識が高まった時期である。大量生産・大量消費型の社会から,天然資源の消費を抑制し,環境負荷をできる限り低減しようとする,循環型社会への転換が唱えられ始めていた。セラミックス製品についても例外ではなく,強度を高めたり不純物を取り除いたりするのに必須な加熱処理の工程での省エネルギーが課題となっていた。タイル用の陶磁器の場合,およそ1,000℃前後で焼成するのが一般的だが,この加熱処理に必要な高温環境を生み出し維持するためのエネルギーの削減が模索されたのである。


「ソイルセラミックス」の最大の特徴は,原料を高圧下で蒸して作るという点だ。高圧水蒸気下での「ソイルセラミックス」の養生に必要な温度は200℃以上程度と,従来法に比べて格段に低温であった。そのため,製造に必要なエネルギーを従来法の1/5~1/7に,二酸化炭素排出量も半分以下にまで低減できたのである。また,原料に関わらず安定した強度が得られる点から,各地方の土や産物を使って土地ごとにオリジナルの製品を生産することも可能だった。これは,地域性を生かした街づくりに貢献する,というビジョンの提示にもつながった。近年,循環型社会をさらに発展させた「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」という概念が提唱されているが,「ソイルセラミックス」はこれを先取りした製品とも評価できるかもしれない。


時代は下って2020年,グッドデザイン賞で金賞を受賞したのは,ポリエステル繊維の100%リサイクルを目指すビジネスモデル「BRING」だった。衣類の大量廃棄に対する問題意識から出発し,原料調達から製品製造販売,廃品回収に至るまでの資源循環の仕組みを構築する試みである。環境との共生を前提とした製品・サービスの開発は,大きな潮流として確実に社会に広がっていることを実感できる。


 

[今月のCIRCO]


会期: 2023年6月2日(金) - 7月9日(日)

時間:11:00-20:00 会期中無休/入場無料


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