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地球を救いながら、経済も伸ばす

「環境のためにガマンしよう」——そんな時代は、もう終わりかもしれません。脱炭素を成長のエンジンに変える「GX(グリーントランスフォーメーション)」という考え方が広がっています。企業と大学が協働で実装化を進めていますが、今回はGXにおける大学の役割を紹介します。




「脱炭素」って、結局コストなんじゃないの?


電気代が上がった。ガソリンが高い。「環境のため」だから仕方がない……。でも、その見方は少しずつ変わっています。

GXは脱炭素化を「我慢のコスト」ではなく「成長のエンジン」に変えようという発想です。太陽光や風力でクリーンなエネルギーを自給できれば、燃料を輸入し続ける必要がなくなります。その技術が産業を生み、雇用が増える。環境保全と経済は、実はトレードオフではないのです。そしてこの変革を、最前線で支えているのが大学です。



企業にはできない「10年がかりの研究」


新しいビジネスを始めるとき、企業は「いつ利益が出るのか」を考えます。当然のことです。でもそれは裏を返せば、「すぐには役に立たない研究」には手が出しにくいということでもあります。

蓄電池を例に挙げます。スマートフォンや電気自動車に欠かせない蓄電池ですが、今日の性能は、10〜20年前の地道な基礎研究が土台になっています。JST(科学技術振興機構)が2013年から10年かけて進めた「ALCA-SPRING(先進低炭素化研究プログラム)」事業では、全固体電池やナトリウムイオン電池の知見が積み上げられました。それらの成果が、今の実用化を推進しているのです。

大学には、「いつ役に立つかわからないけれど、やらなければならない研究」を続けられる環境があります。これは、社会にとってかけがえのない機能です。

将来の技術の「種」を育てる役割を担い、企業が「いつ使えるか」を検証する。この役割分担があるからこそ、GXを進めることができるのです。



技術だけでは、社会は変わらない


では、技術さえ進めばGXは実現できる? 残念ながら、そう簡単ではありません。

たとえば、風力発電の風車を山の上に建てようとすると、地元住民の合意が必要です。電気自動車への乗り換えを勧められても、充電スポットが近くになければ、踏み切れない人がほとんどでしょう。技術の問題ではなく、人と社会の問題です。

だから大学では、「どうやって作るか」と「どうすれば使ってもらえるか」を、工学や理学だけでなく、経済学・法学・心理学・社会学の研究者が一緒になって考えます。大学は、そのような多角的な議論ができる場です。

もちろん、GXはいろいろなところで議論が進んでいます。政府レベルの公式な議論の場があり、企業がGXの市場ルールや実装を議論する場もあります。しかし、私たち一人ひとりの納得を作る議論ができるのは、大学かもしれません。


利害関係のない「正直な声」


政策を作るとき、産業界からは「自分たちの業界に有利なルールを作ってほしい」、政治家からは「地元住民が望むルールを取り入れてほしい」といったさまざまな声が聞こえてきます。

そこで必要なのが、利害関係のない第三者による科学的根拠です。

「データがそう言っているから、こういうルールにする」とはっきり言える存在が、社会には必要なのです。

そうした役割を担いうるのが、大学です。大学は産業界と協働で研究を進めています。産業界と連携しながらも、データの評価と基準の策定は独立した立場で行うことが大学の強みです。

例えば、北海道大学は道内の自治体や産業界・金融機関と手を組み、北海道の豊かな再エネ資源を生かしたGX産業の集積を主導しています。特に北海道は寒冷地でエネルギー負荷が大きく、GX(特にZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)・再エネ・地域エネルギー)における大学と企業の協働が全国でも重要な地域です。



研究室から、世界へ


大学の研究成果は、論文の中だけに留まりません。

例えば、京都大学発のスタートアップ企業OOYOOは、大気中のCO₂を効率よく分離・回収する技術を開発し、大手電池メーカーと2027年の製品化に向けて動いています。回収したCO₂は電池材料や工業原料に転換されるため、排出削減と資源確保を同時に実現できる技術として注目されています。

この事例だけでなく、多くの大学では、研究室で生まれた成果を社会へとつなげる回路が、少しずつ整ってきています。

そして何より、大学が育てた人材が、産業・行政・地域へと巣立っていきます。その人材が各現場でGXを担うことで、研究の知恵が社会全体に広がっていきます。大学の役割は、技術を生み出すことだけでなく、変革を担う「人」を送り出すことにもあります。



変革は、誰かがやってくれるのを待つのではなく


GXは国や企業だけの話ではありません。新しいエネルギーや材料の研究、地域との対話、人材の育成——これらが積み重なって初めて、社会は変わります。

大学は、研究と社会実践をつなぐ結節点として、私たちを含む多くの人々とともに、静かに、しかし確かに、その歯車を回し続けています。


私たちの日常のエネルギー選択や、地域の取り組みへの参加も、その歯車を回す役割を担っているのです。北海道大学でGXに取り組む研究者を取材して、変革は、誰かがやってくれるのを待つのではなく、一人ひとりが担うものだと、改めて実感しました。



参照


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