「伝える」から「伝わる」仕組みへ
- Mineyo Iwase

- 1 日前
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教育工学が解き明かすサイエンスコミュニケーションの「How」
サイエンスコミュニケーションは、専門家が一方的に知識を伝える時代から、市民との双方向的な対話を目指す時代へと変化しました。そこで求められるのが、「伝える」技術から「伝わる」ための設計へのシフトです。対象者に合わせた最適な「介入(デザイン)」を行う教育工学の視点を取り入れることで、私たちのコミュニケーションはどう変わるのか。その可能性を探ります。

私たちが教育工学を学ぶ理由
私たちがサイエンスコミュニケーションのサービスを提供する際、その理論的背景にしている分野に「教育工学(Educational Technology)」があります。
教育工学は、教育現場の改善に役立つ効果的な技術や工夫を開発・設計し、その効果を評価することを目的としています。その基礎には、教育学、教育哲学、教育心理学、学習科学、経済学、人類学、統計学、情報科学など、極めて多様な分野が含まれます。また研究フィールドも、幼児教育から生涯教育、医学教育、キャリア教育、企業内教育など、人が学ぶあらゆる実践の場に広がっています。
教育学と教育工学の違いは
では、いわゆる「教育学」と「教育工学」はどう異なるのでしょうか。近代(18世紀後期以降)には体系化されている教育学も、「人間が学ぶこと」「人を育てること」を対象とし、「教育の質の向上」を目指す点では教育工学と共通しています。
違いはそのアプローチにあります。教育学が主に「Why(なぜ)」や「What(実態は何か)」を問い、現象の深い理解を目指すのに対し、教育工学はその場において「How(どうすれば)」を考えます。
教育工学は、常に「現状(Before)」と「あるべき姿(After)」のギャップを埋めるための「介入(デザイン)」を行い、最適な「手段(Technology/Method)」を提案します。つまり、現場の「どうすればよいのか」というニーズから生まれた、実践的な解決策を探究する学問なのです。
サイエンスコミュニケーションのこれまで
一方、サイエンスコミュニケーションは当初、科学が社会に与える影響が大きくなる中で、「市民の科学リテラシーを向上させる必要がある」という動機から始まりました。
しかし、BSE(狂牛病)問題などを発端に、イギリスなどで科学に対する不信感が高まると、専門家が知識を一方的に伝えるだけの「欠如モデル(トップダウン的な手法)」への批判が生まれました。そこで、科学者と市民が双方向に対話し、合意形成を行うための新たな方法論が求められるようになったのです。
多様化するサイエンスコミュニケーションの手法
現在では、サイエンスコミュニケーションの手法は多岐にわたります。
対話型: 討論会、ワークショップ、サイエンスカフェ
学習・体験型: 学校の授業、実験・工作教室、ワークショップ式講習会
展示・エンタメ型: 科学館展示、プラネタリウム、サイエンスショー、サイエンスアート
メディア型: 科学ニュース、科学番組、雑誌、書籍
政策関連: コンセンサス会議、テクノロジーアセスメント、リスクコミュニケーション
このようにサイエンスコミュニケーションの場面や方法を整理してみると、これらはすべて、対象(参加者)や状況に応じて適切な「手段」を選び、「現状」と「あるべき姿」のギャップを埋めようとする行為であることがわかります。まさに、「How(どうすれば)」を考え、「介入(デザイン)」を通じて問題を解決するという教育工学のアプローチそのものです。したがって、各手法の意味や効果を最大化するためには、教育工学の知見が極めて有用なのです。
より良いサイエンスコミュニケーションを提供するために
実は、教育工学の講義は大学院レベルでは実施されていますが、学部のカリキュラムに含まれているケースはまだ少ないのが現状です。(※今年度開設された東京理科大学の科学コミュニケーション学科など、一部で導入の動きは見られます)。つまり、教育工学的な視点を持ってサイエンスコミュニケーションを設計できる人材は、まだ多くありません。
サイエンスコミュニケーションも教育工学も、適切な技術やシステムを用いて参加者の学びを支援(ファシリテート)し、パフォーマンスを向上させるという最終目標は同じです。
私たちは、教育工学の研究成果やそこに示されている効果的な手法を活かしながら、根拠に基づいた「より良いサイエンスコミュニケーション」を提供していきたいと考えています。




