多様な「声」が生かされる社会に向けた定性評価
- Junko Wada
- 6 日前
- 読了時間: 3分
タイトルが目に留まり、中身もよく確認せずに買った本があります。
「口の立つやつが勝つってことでいいのか」
病気によって言語化することの難しさを初めて感じた作者が、言葉にしたとたんにこぼれ落ちる表現や、言葉にならないことのもつ意味や価値を見つめ直すエッセイです。

社会全体が、言語化・数値化可能でわかりやすいことが重視されるようになっています。ウェブやSNS検索のフィルターバブルの力も借りて、わかりやすいことはどんどん人の目に触れ、支持を得ますが、逆にわかりにくいことは誰からも関心を寄せられずに埋もれていきます。
「口の立つやつが勝つ」というのは、言語をわかりやすく操れるという人間のひとつの能力によって優位な状況を得られるというもので、公平さに欠けると言えるかもしれません。
ある事象をわかりやすく表現するための代表的な方法は、数を用いて定量的に表現することです。数値や数量は共通概念ですから、認識がすれ違うことがあまりありません。定量化により客観性や反復可能性を持たせたり、トレンドや結果を端的にとらえたりすることも可能になります。
一方、「定量的」に対する言葉は「定性的」です。現場や当事者の中で実際に「何が」「どのように」「なぜ」起こっているかを表現するものです。深い洞察を得ることができますが、端的ではないために理解に時間がかかったり、評価指標がないため、どうとらえたらよいかわからなかったりすることもあります。

何か達成したい目標があるとき、いまの状態や取り組みを定量的に評価することで、次のアクションにすばやくつなげることができます。しかし、なぜその状態になっているかを定性的に掘り下げることも重要です。特に多様化・複雑化する社会課題解決においては、その当事者の「声」を拾うことがとても重要です。
「地元からの若者流出を防ぐために、地元就職時には大学進学時の奨学金返済が不要となる」といった施策がありますが、そもそもなぜ若者が地域から出て行くのかという「声」を拾い、何が根本的な原因なのかを明らかにする必要があります。しかし、その作業は対象が多ければ多いほど果てしなく、またどのように分析し、評価すればよいか分からないことも多いのではないでしょうか。
一見、合理的に見えるアンケートやパブリックコメントでは回答者属性や意見に偏りが出ることもあります。また、住民の代表者で組織される委員会では、前述の「口の立つやつ」しか意見を言えない状況が、往々にしてあります。したがって、これらは「声」を拾うための効果的な手法とは言い切れません。こうした限界を踏まえると、「声」を拾うための、より的確な方法が求められます。
実際の「声」を拾い集め、ロジカルに分析して、物事の本質を明らかにしようとしてる研究方法に、「質的研究」と呼ばれるものがあります。「質的研究」は、インタビューや観察を行い、数値では表現しにくい人々の経験や価値観といった情報を集め、人間心理や文化の文脈を考慮して分析し、社会現象の背景にある「意味」を見出そうとする特徴があります。
サイバコは、この「質的研究」の手法を活かし、さまざまな「声」を分析・評価することで、改善案や施策を考えるための支援を行っています。「口の立つやつ」だけでなく多様な声が生かされる社会に向けて、サイバコはご一緒したいと考えています。
「質的研究」についての具体的な手法や事例は、別の記事ご紹介する予定です。ぜひご覧ください。
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